印象―シャコちゃん

芥子菜

2010年11月18日 22:26

今夕。

黄金色の夕陽が、
素っ気無いブラインドをものともせず、
室内を明るく照らしていた。
わたしがいた事務所は、
建物に沿って外塀が巡らされ、
家を火の手から守るという樹が
その内側にぐるりと植わっている。
昼尚暗く見ゆる、
みっしりと茂った葉の間に、
件の夕陽が交じった。

壁に投影された、
歪んだ樹影は、
そう、まるで木造駅舎
―遮光式土偶のシャコちゃんだった。

墨のようなシャコちゃんの影絵。
黄金色の後光。
時折交じるスミレ色のフレア。

少しだけ。
ほんの少しだけ。
そう自分に言い聞かせながら、
息をひそめて、
見とれていた。
今、目の前に生まれた、
二度めぐり会えるかわからない、
とてつもなく美しいもの、に
ただじっと視線を注いでいた。

いつまでもとらわれていられる状況じゃないことは、
重々承知していたから。
思い切るために、
さっと顔を背けた。

だから
心の中では、
今も、ラストシーンが浮かぶ。

燃えるような
後光の差した
美しいシャコちゃん像。
関連記事