春、失踪の季節。

芥子菜

2015年05月24日 06:50

自分がいま所属しているなにかを辞めるひそかな決意は、「春」のイメージです。

それは、古典物語「とりかへばや」にて、
主人公が、形を変え身分を捨てて身を潜めることをひっそりと決意したとき、
あの人ともこの人ともこれが最後と、内心で別れを告げて行くシーンを思い出すから。

失踪した後、主人公の自室から折られた愛用の横笛が見つかり、周りにもこれは覚悟の失踪だと伝わります。
妊娠したばかりの妻を放りだすとはどういうことだろうと世間には噂が流れます。
少しなりとも主人公の事情に通じていた、両親や腹違いのきょうだいは、それぞれ余計に思い悩みます。

そして、物語の季節に重ねて、登場人物たちに嵐が吹き始めるわけです・・・。

特別父親に可愛がられて育った末娘への嫉妬、
不倫を暴露される姫、
頼りにならない夫から両天秤にかけられていることを知っていながら、もう一方の妊娠中の女性の見舞いを勧める女性、
帰宅したら子どもを残して妻が失踪していた男性、
過去を捨てた女性などなど。
いま思い返しても、いろんな人生が詰まってる濃い濃い物語です・・・。

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